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インタビューInterview

人生の集大成としての社会貢献 遺贈寄付で想いと財産を次世代へ

2024/07/25

一般社団法人 日本承継寄付協会 代表理事
司法書士法人東京さくら代表 三浦美樹 氏

 自分が亡くなった後、残った財産の一部を社会のために寄付する「遺贈寄付」への関心が高まっている。この人生最後の社会貢献ともいえる遺贈寄付の普及に努めているのが、一般社団法人日本承継寄付協会の代表理事を務める三浦美樹氏だ。遺贈寄付によって「思いやりのお金が循環する社会」を目指している三浦氏に話を聞いた。

――遺贈寄付の仕組みについて簡単に教えてください。

 遺贈寄付は、自分が亡くなった後、残った財産の一部をNPO団体や公益法人、教育機関、地方自治体などに寄付する方法です。人生最後のお金の使い方を遺言書に記載することで、自分が作りたい未来や、応援したいことに残ったお金を託すことができます。一般的な寄付と異なり、生前に使いきれなかった財産の一部を寄付しますので、老後のお金を心配することなく寄付できるところが大きな特徴です。遺贈寄付に関する遺言書を作成しても、お金を残すことを約束したわけではないので、財産を使い切っても問題ありません。

――亡くなった後に財産の一部を未来に託せるのは素敵ですね。

 それも遺贈寄付の大きな魅力で、遺贈寄付によって最後のお金の使い方を示すことで、相続人はもちろん、相続人以外の方々にも「その人らしさ」や「その人に対する誇り」といった財産以外の貴重なものを遺すことができます。特に、相続のお金の流れは法律で決まっていると思われる方も多いですが、近年は家族の形が変化し、「おひとり様」という方も急増しています。それにともない価値観もどんどん変わってきていますので、これからは「財産の相続先は自分で選ぶ」という時代になってくると思います。

――財産の一部を寄付するとなると、相続人の反応が気になるところです。

 財産というと、よく大金を想像されますが、遺贈寄付は1万円など少額から寄付することができます。子どもたちの明るい未来のために数万円や数十万円を遺贈寄付する方もいますが、そうした方々の親族からは「誇りに思う」「地域に貢献できてうれしい」といった声が寄せられています。実際、遺贈寄付の全国実態調査を実施したところ、8割の相続人が遺贈寄付を好意的に受け止めていました。まさに、人生最後のプライスレスのお金の使い方といえます。

――遺贈寄付を提案している専門家は多いのでしょうか。

 そこが一番の課題で、相続を専門に扱っている士業などは多いですが、お客様に対して遺贈寄付を積極的に提案している専門家はほとんどいません。私自身、相続専門の司法書士として2000件以上の相談を受けてきましたが、当時は遺贈寄付のことをよく知らなかったので、提案したことは一度もありませんでした。もしかすると、どこかに寄付したいけど、よく分からないという相談者もいらっしゃったかもしれません。私の知識不足によって、そのような方々から遺贈寄付という選択肢を奪っていたんです。そう思った時、この課題を解決するのは自分しかいないという使命感を覚えました。その後すぐ、遺贈寄付によって社会貢献したいという方々を支援するため、「一般社団法人日本承継寄付協会」を設立させました。

――協会では、どのような活動をされていますか。

 先ほど触れました遺贈寄付の全国実態調査は2020年から4年連続で行っています。その結果を見ても、遺贈寄付の認知度は依然として低く、お金持ちがするものと誤解している人もたくさんいますので、イベントやメディア取材などを通じて、遺贈寄付に関する啓発・情報発信に力を入れています。また、遺贈寄付のことは知っていても、どこに寄付できるか分からないという方もいますので、遺贈寄付のガイドブック「えんギフト」を発刊しています。これは、具体的な活動団体や事例を参考にしながら、寄付する先をワクワクしながら探すことができる日本で唯一の寄付情報専門誌です。「えんギフト」は、全国すべての公証役場に設置されているほか、税理士先生など士業の事務所にも置いていただく機会が増えてきました。

――まずは、遺贈寄付を知ってもらうことが重要というわけですね。

 はい。ただ、当協会の活動だけでは限界がありますので、一緒に遺贈寄付を広めていただける専門家が欠かせません。そこで、お客様の意向に沿った形で寄付を実現させるための支援を行い、お客様の想いと財産を次世代に繋ぐために必要な能力を身に付けるための資格制度「承継寄付診断士」を2020年から運営しています。相続支援に携わっている士業の方々をはじめ、FPや金融機関など多くの方々が受講されています。

――ほかには、どのような活動をされていますか。

 遺言書作成のハードルを少しでも下げるため、遺贈寄付の遺言書作成費用を助成する「フリーウィルズキャンペーン」を実施して__います。これは、遺贈寄付をともなう遺言書作成報酬や、寄付が含まれる税務相談報酬の一部(5万円分)を協会が助成するキャンペーンです。遺贈寄付が盛んなイギリスで行われている活動で、協会では2022年に初開催しました。2023年9月~2024年3月の半年間で50件、記載寄付金総額11億7630万円の申込みがありました。この「フリーウィルズキャンペーン」と「えんギフト」については、内閣府、法務省、日本公証人連合会に後援していただいています。

――税理士先生にメッセージをお願いします。

 当協会では、「ふるさとに恩返しをしたい」「地元に貢献したい」という方々の想いを形にするため、「ふるさと遺贈」として自治体と連携しています。現在、静岡市、掛川市、文京区、裾野市と協定を締結しています。「ふるさと遺贈」をすることで地域間格差の是正にも繋がりますので、これからの日本社会にとって重要な取り組みだと考えます。特に、経営者の中には、地域や社会に貢献したいと思っている方々がたくさんいらっしゃいますので、経営者の身近な相談相手である税理士の先生方から遺贈寄付をご紹介いただければ、遺贈寄付の認知度や利用件数は一気に高まるはずです。最後の最後に、自分らしい財産の残し方について提案することができて、それが地域や社会に役立つわけですから、多くの方々に感謝される素晴らしい取り組みだと思います。

――今後の展望についてお聞かせください。

 日本人の平均寿命は80代後半となり、その財産を相続する相続人の年齢も60代~70代と高齢化しています。しかも、人生100年時代と言われる中、高齢の相続人も不安でお金を使うことができず、ご自身の年金も加算され、結果として亡くなる時が一番お金持ちというケースも少なくありません。日本国内における年間の相続額はおよそ50兆円にのぼると言われていますが、そのうち毎年1%でも遺贈寄付を選択されるようになると、約5000億円のお金が次世代にまわる社会を実現することができます。私たちは「思いやりのお金が循環する社会」を作るため、2050年までに累計50兆円のお金の流れを変えることを目指しています。ぜひ、一人でも多くの税理士先生にご賛同いただき、寄付の専門家としてお客様の想いと財産を次の世代に届けるお手伝いをしていただけたら嬉しいですね。

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